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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)706号 判決

原告(反訴被告) 京王重機整備株式会社

右代表者代表取締役 小山豊治

原告(反訴被告) 東港精機株式会社

右代表者代表取締役 小山豊治

右両名訴訟代理人弁護士 江副達哉

被告(反訴原告) 株式会社三共機械製作所

右代表者代表取締役 出倉市太郎

右訴訟代理人弁護士 秋山昭八

同 岡部勇二

主文

一  反訴被告(本訴原告)京王重機整備株式会社は反訴原告(本訴被告)に対し金四八万七六〇円とこれに対する昭和四六年二月二一日以降その支払いがすむまで年六分の割合による金員を支払わなければならない。

二  反訴被告(本訴原告)東港精機株式会社は反訴原告(本訴被告)に対し金二万五三六〇円とこれに対する昭和四六年八月二四日以降その支払いがすむまで年六分の割合による金員を支払わなければならない。

三  反訴原告(本訴被告)の反訴被告(本訴原告)京王重機整備株式会社に対するその余の請求を棄却する。

四  本訴原告(反訴被告)両名の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は本訴反訴を通じ本訴被告(反訴原告)について生じた費用を三分してその二を本訴原告(反訴被告)京王重機整備株式会社の、その余を本訴原告(反訴被告)東港精機株式会社の各負担、その余は各自の負担とする。

事実

第一申立

(原告―反訴被告―京王重機整備株式会社)

一  本訴請求につき

被告は原告に対し二九五万一八〇〇円とこれに対する訴状送達の翌日以降右支払のすむまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。訴訟費用は被告の負担とするとの判決と仮執行の宣言を求める。

二  反訴請求につき

反訴請求を棄却する。訴訟費用は反訴原告の負担とする。

との判決を求める。

(原告―反訴被告―東港精機株式会社)

一  本訴請求につき

被告は原告に対し一五〇万円とこれに対する昭和四六年三月六日以降右支払いがすむまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。訴訟費用は被告の負担とする。との判決と仮執行の宣言を求める。

二  反訴請求につき

反訴請求を棄却する。反訴費用は反訴原告の負担とする。

との判決を求める。

(被告―反訴原告)

一  本訴請求につき

主文第四項と同趣旨の判決ならびに訴訟費用は原告らの負担とするとの判決。

二  反訴請求につき

主文第二項と同趣旨の判決、および反訴被告京王重機整備株式会社は反訴原告に対し、五四万七七六〇円とこれに対する昭和四六年二月二一日以降右支払いがすむまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。反訴費用は反訴被告らの負担とするとの判決、ならびに仮執行の宣言を求める。

第二主張

(原告京王重機整備株式会社の本訴請求)

請求の原因

一  原告京王重機整備株式会社(以下「原告京王」という)は、各種自動車、建設機械の修理、部品の製造販売を業とする会社であり、被告は諸機械の製造を業とする会社である。

二  原告京王は、昭和四五年七月八日被告に対し、排土機械装置八台の部品について、製作・加工を依頼し、被告はこれを次の約定で請負った。

(一) 代金   一四〇万円

(二) 納入場所   被告の工場

(三) 納期   昭和四五年七月三一日限り

(四) 代金支払方法 当月二五日締切、翌月二〇日に満期まで四か月の約束手形による。

三  前項の契約において、特に納期の定めについては、右製作・加工を依頼した機械部品は、原告京王において、同原告の受注先である訴外ニッサク荷役機械工業株式会社(以下「訴外ニッサク」という)に納品すべきものである旨告げたうえで、被告営業部員である訴外西内禄郎との間で合意したものである。

仮に、右西内が右合意をしていないとしても、被告の工場長であった訴外渡辺剛通との間で右納期について合意した。

仮に、右渡辺が右納期について合意するにつき代理権を有していなかったとしても、次の理由により、表見代理として被告はその責に任ずべきである。すなわち、

(一) 同訴外人は、右請負契約について、当初よりその接渉に関与していた。

(二) 同訴外人は、工場長であったが、特に営業に関し、一部被告を代理する権限を付与されていた。

(三) 右契約が成立するに至るまで、原告京王の職員である訴外細賢一は、営業・技術の両面にわたりすべて常に訴外渡辺と接渉していたが、その結果について被告の誰からも異議が出ることなく経過していた。

以上の事実からすると、被告は、右請負契約をなすについて、訴外渡辺に一切の代理権を与えた旨を表示していたものであり、訴外渡辺は、付与された代理権の範囲を超えて右契約をなしたものであるうえ、原告京王は訴外渡辺が右納期を定めて契約するにつき権限を有するものと信じて右契約をなしたのであって、このように信ずるについては正当な事由があったものであるから、民法一〇九条、一一〇条により表見代理として、被告がその責に任ずべきである。

四  ところが、被告は約定の納期である昭和四五年七月三一日までには、僅かな一部の仕事しかしていなかったため、原告京王は同日被告に対し、昭和四五年八月一〇日までに完成させたうえ原告京王に引渡すよう催告した。

しかるに、被告は右催告の期限までに、別紙一覧表(一)記載の品を納品したのみで、その余の品については原告京王に引渡さなかったため、原告京王は被告に対し、同日履行遅滞を理由として、右注文した品のうち、右一覧表(一)記載の品を除くその余について、請負契約を解除した。

五  仮に、右解除の意思表示が認められないとしても、昭和四五年八月二日に至り、原告京王が被告に注文した品のうち、右一覧表(一)記載の品以外の品については、前項記載の催告期限までに完成させる見込がないことが明らかとなったので、履行不能により、同日右未完成品に対する請負契約を解除した。

六  仮に、右何れの解除の主張も認められないとしても、右未完成品については、商法五二五条により、昭和四五年八月一〇日をもって請負契約が解除されたものとみなされる。

すなわち、右未完成品を含む排土機械装置は、同日までに完成して原告京王に納品されないと、右機械の最終納品先である訴外波止浜造船株式会社(以下「訴外波止浜」という)においてその目的を遂げることができないもので、この事実は契約に際し原告京王が被告に告げてあったもので、右催告にかかる期限は確定期限である。

七  そこで原告京王は、被告によって納品されなかった右品につき、別紙一覧表(二)記載の各訴外会社らに同表記載のとおり新たに注文して完成させ、これを昭和四五年九月二〇日に原告京王の受注先である訴外ニッサクに納品した。

八  被告は、新たに発注した右訴外会社らに合計二六五万一八〇〇円(明細は別紙一覧表(二)記載のとおり)を、訴外ニッサクに対し納期遅延損害金として二〇〇万円を支払い、訴外ニッサクからは、代金二四〇万円を受領した。

右新たに発注した先に対する代金支払額が高額になったのは、納期を急がせたため特に高額となったものである。

九  以上により、原告京王は次のとおりの損害を被った。

(1) 発注替により訴外会社らに支払った代金四六五万一八〇〇円と、受注先である訴外ニッサクから受領した代金二四〇万円の差額二二五万一八〇〇円。

(2) 被告により原告京王に対し約定通り納品された場合に、これを訴外ニッサクに納品して得べかりし利益一〇〇万円。

以上の合計三二五万一八〇〇円。

一〇  よって、右損害金三二五万一八〇〇円と、これに対する訴状送達の翌日である昭和四六年二月二三日以降その支払いがすむまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

請求の原因に対する被告の認否

一  請求の原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実は(三)の納期の点を否認し、その余は認める。

納期については、原告京王から被告に材料が支給された日から四〇日の約定であったところ、右材料が支給されたのは、昭和四五年七月二〇日が最終であり、従って納期は同年八月二九日であった。

三  同第三項の事実はいずれも否認する。

四  同第四項の事実もすべて否認する。合意により契約を解除したものである。

五  同第五項の事実も否認する。同年八月一〇日までに完成することが可能であった。

六  同第六項の事実は否認する。

七  同第七項の事実は知らない。

八  同第八項の事実中、訴外ニッサクから原告が受領した代金額は知らない。その余の事実は否認する。

九  同第九項は争う。

(反訴原告の反訴被告京王重機に対する反訴請求)

請求の原因

一  反訴原告は、昭和四五年七月八日反訴被告京王から、排土機械装置八台の部品の製作加工を次の条件で請負った。

(一) 代金 一四〇万円

(二) 納入場所 反訴原告の工場

(三) 納期 材料支給後四〇日

(四) 材料 材料は反訴被告京王が支給する。但し支給した材料以外は反訴原告において調達する。

(五) 代金支払方法 毎月二五日締切、翌月二〇日に満期まで四〇日間の約束手形により支払う。

二  反訴原告は、右請負契約に基き、別紙一覧表(一)記載の部品につき同年八月五日から一〇日までの間にこれを完成しその旨反訴被告京王に通知し、右一覧表記載のとおり反訴被告京王に引渡した。

三  右引渡と了した部品の代金(加工費)額は、右一覧表記載のとおりで、その合計は三三万六四〇〇円である。

また、アイピース以外は反訴原告がその材料を調達してこれに加工したものであるところ、その材料費は二一万一三六〇円である。

四  よって、右合計五四万七七六〇円と、これに対する、約定により支払いのため交付されるべき約束手形の満期予定日の翌日である昭和四六年二月二一日以降その支払いがすむまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

請求の原因に対する反訴被告京王の認否

一  請求の原因第一項の事実は納期の点を除いて認める。納期は昭和四五年七月三一日の約定であった。

二  同第二項の事実については、反訴被告京王が反訴原告から、昭和四五年八月一〇日までに、主張の品を受領した事実を認めその余の事実は否認する。

三  同第三項の事実はすべて認める。

反訴被告京王の抗弁

反訴原告から受領した別紙一覧表(一)記載の製品中、二〇一アイピースについては八個全部につき、テンションロードとの結合において芯振りがあり、その熔接のやり直しを要したため、その作業代として二五万六〇〇〇円を要し、二一二ロックピンについては、うち五個につき穿孔作業が拙劣で直経が過小であったため、訴外セントラルマシン株式会社に手直し加工を依頼し、その加工代金として三万五〇〇〇円を支払った。

よって、右合計二九万一〇〇〇円につき反訴請求金から減額を求め、或は右請求金と対等額において相殺する。

反訴被告京王の抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。

(原告東港精機株式会社の本訴請求)

請求の原因

一  原告東港精機株式会社(以下「原告東港」という)は、プレス加工、機械加工、製缶、板金を主たる業とする会社であり、被告は諸機械の製造を主たる業とする会社である。

二  原告東港は、昭和四五年七月八日被告に対し、フェアリーダー八台分の部品の製作を、右は原告東港が顧客である原告京王より依頼され、その製作を昭和四五年七月八日同訴外会社に納入すべきものである旨の事情を告げて被告に依頼し、被告は次の約定でこれを請負った。

(一) 代金 一二三万二〇〇〇円

(二) 納期 昭和四五年七月三一日

(三) 支払 毎月二五日締切、翌月二〇日に満期まで四か月の約束手形による。

(四) 特約 原告東港は被告に対し、本体シープサボートを無償で、ベアリングオイルシールを有償で支給する。

三  原告東港は被告に対し、前項の特約により無償で支給すべきシープサボートを支給したが、被告は約定の納期である昭和四五年七月三一日に納品しなかったため、原告東港は同日被告に対し、期限を同年八月一〇日と定めて履行を催告した。

四  しかし、同月二日に至り、被告が右催告の期限までに完成させることができないことが明らかになったため、同日原告東港は履行不能を理由として右請負契約を解除した。

五  そこで原告東港は、被告に製作を依頼した部品を別紙一覧表(三)記載のとおりの訴外会社に改めて製作を依頼し、また一部を原告東港自ら製作して完成させたうえ、昭和四五年八月一九日原告東港に対する発注先である原告京王に引渡した。

六  その結果、原告は新たに製作を依頼した訴外会社らに対し、右一覧表(三)記載のとおり二二六万三六四七円の代金を支払い、原告東港が自ら完成させた部品につき四七万四五七六円の費用を要した。原告京王からは、代金として一三六万八〇〇〇円を受領した。

七  右により、原告東港は次のとおりの損害を被った。

(1) 発注替により訴外会社に支払った代金二二六万三六四七円および原告東港が自ら支出した費用四七万四五七六円の合計二七三万八二二三円と、原告東港が訴外ニッサクから受領した一三六万八〇〇〇円との差額一三七万二二三円。

(2) 被告により原告東港に対し約定通り納品された場合に、これを訴外ニッサクに納品して得べかりし利益一三万六〇〇〇円。

以上の合計一五〇万六二二三円。

八  よって、右損害金一五〇万六二二三円と、これに対する訴状送達の翌日である昭和四六年二月二三日以降その支払いがすむまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

請求の原因に対する被告の認否

一  請求の原因第一項の事実は認める。

二  同第二項の事実も認める。但し、納期については、合意のうえ昭和四五年八月一〇日に変更(延期)された。

三  同第三項の事実中、原告東港より、主張の部品の支給のあったことは認めるが、その余の事実は否認する。

四  同第四項の事実はいずれも否認する。解除の意思表示がなされたとしても、期限未到来の時期になされたものであり、履行の催告もなされていないので、その効力は生じない。なお、請求原因第二項の契約は、昭和四五年八月二日合意により解除されたものである。

五  同第五項の事実および第六項の事実はいずれも否認する。

六  同第七項は争う。

(反訴原告の反訴被告東港に対する反訴請求)

請求の原因

一  反訴原告は、反訴被告東港から、昭和四五年七月二日、フェアリーダー八台の製作を次の約定で請負った。

(一) 代金 一二三万二〇〇〇円

(二) 納入場所 反訴原告工場渡し。

(三) 納期 昭和四五年八月一〇日

(四) 材料 反訴被告東港が支給する。但し支給がないものについては反訴原告は調達する。

(五) 代金支払 毎月二五日締切、翌月二〇日に満期まで四ヶ月間の約束手形で支払う。

二  反訴原告は、反訴被告東港より、昭和四五年七月一五日、材料として本体シープサボートを無償で、ベアリングを有償で支給され、同年八月四日までに次のフェアリーダー用部品を完成して反訴被告東港に引渡した。

(一) 七番プラグボルト 八本 一六〇円

(二) 七番プラグSS四一 八本 一〇〇円

(三) 一五番シャフト 一六本 二万五二〇〇円

三  反訴原告は、右代金のうち一〇〇円を値引きしたので残金二万五三六〇円とこれに対する本件反訴状が反訴被告東港に送達された日の翌日以降その支払いがすむまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

反訴請求原因に対する反訴被告東港の認否

請求原因事実については、納期の点を除きその余の事実は全て認める。約定された納期は昭和四五年七月三一日であった。

第三証拠の提出、援用《省略》

理由

以下において、本訴原告(反訴被告)京王重機整備株式会社は本訴・反訴を通じて単に「原告京王」と、同東港精機株式会社は本訴・反訴を通じて単に「原告東港」と、本訴被告(反訴原告)は本訴・反訴を通じて単に「被告」という。

第一原告京王の本訴請求並びに被告の同原告に対する反訴請求について

一  原告を注文者、被告東港を受注者として、排土機械装置八台分の部品の製作加工につき、納期に関する点を除き、次の約定により請負契約が成立したことは、本訴、反訴を通じて当事者間に争いがない。

(1)  代金 一四〇万円

(2)  代金支払方法 毎月二五日締切、翌月二〇日限り期間四か月の約束手形により支払う。

(3)  納入場所 被告工場渡し。

(4)  材料支給 材料は原告が支給する。但し、原告において支給した材料以外は被告が調達する。

二  右請負契約において、納期の点につき、原告は昭和四五年七月三一日を約定された旨主張し、被告は材料支給後四〇日の約束であった旨主張して争いがあるのでまずこの点について検討する。

(一)  《証拠省略》によると、右請負契約については、特段の契約書は作成されず、被告から原告京王に対し、金額を一一八万九四四〇円、納期を材料支給後四〇日とした見積書を提出し、これに対し原告京王から被告に対し、代金額を一四〇万円、他は打合せ通りとする注文書を交付することにより成立したものと認められる。

(二)  そこで右見積書に記載された納期と、注文書に記載された「打合せ通り」との関係について検討する。

《証拠省略》を総合すると次のとおり認められる。

(1) 訴外渡辺はもと、原告東港に勤務していたことがあり、訴外細と親しかった関係で、訴外細を通じて、右排土機部品製作加工の注文のあることを知り、これを被告において受注するよう被告の営業部に連絡して検討された。その結果前記見積書の条件で注文を受けることとし見積書が原告京王に交付された。

(2) 原告京王は、右排土機の部品は訴外ニッサクから請負った排土機の組立に使用するもので、訴外ニッサクに対する納期が昭和四五年八月二〇日となっていたため、被告に対し出来るだけその納期を短縮させる必要があった。

(3) 原告京王では、事業課長で右排土機の契約、工程管理を担当していた訴外細賢一に、被告との間の納期の決定を任せていたところ、訴外細は、訴外ニッサクとの契約において、工事代金額および納期の点において判断を誤り無理な注文を受けていたところから、被告の納期については、被告の工場長であって、実際の製作上の責任者である訴外渡辺剛通と交渉して出来るだけこれを短縮させ、また訴外ニッサクとの間の納期については、その後の交渉によりできるだけこれを延長させる方針をたてた。

(4) そこで訴外細は、右見積書の提出があった翌日である昭和四五年七月八日訴外渡辺に対し、同月末日までに納入するよう申し入れたが、訴外渡辺は到底困難である旨回答した。これに対し訴外細は一部を下請に出すなどして作業を急ぎ、出来る限り同月末日までに納入できるよう努力して欲しい旨求め、訴外渡辺は極力間に合せるように努力する旨回答した。

(5) 右訴外細と訴外渡辺の話合いの後原告京王から被告に対し納期について確定的な期日を記入しないまま前記注文書が交付された。

以上のとおり認められる。《証拠判断省略》

ところで、右認定のとおりであるとするならば、右請負契約における納期の約定については、原告からは、訴外細と訴外渡辺の右納期についての話合いを前提として、「打合せのとおり」とする注文書を被告に交付し、被告も特にこれに異議を述べずこれを受理しているのであるから、この趣旨で契約が成立したものと解することができる。

そこで、右話合いの結果についてみるに、訴外渡辺は七月末日までに完成させることは到底無理である旨主張し、訴外細の強い要望に対し、一応の期日としてこれを承引したものであって、訴外渡辺が確定的な契約上の履行期日としてこれを約束したものとは認められない。

およそ、請負契約において、その完成の期日を約定するときは、これを履行しない場合履行遅滞の責を伴うものであるから、単なる努力目標といったものではこれを納期の約束と解することはできず、右は単に一定の納期内で、できる限り工期を短縮して納期内である七月末日までに納入できるよう努力することを約束したに過ぎないものというべきである。

そして、右のような趣旨であるとすれば、納期について右話合いにおいて特段の定めをしたものとは認められないから、結局納期については被告の見積書のとおり、材料支給後四〇日と定められたものと解するのほかない。

(三)  《証拠省略》を総合すると、原告京王から被告に支給すべき材料は、訴外細は契約後二、三日で支給できるつもりでおり、訴外渡辺は七月なかころまでには支給されるように訴外細から言われていたが、現実の支給は遅れて最終の支給は七月二〇日ころとなったことが認められる。

もっとも、《証拠省略》によると、右支給は七月二〇日ころに一括してなされたものではなく、それまでに逐次支給されていたものと認められるので、前記納期に関する約旨に照らし、仕事の完成にとって重要でない部分の材料の支給が遅れていたなどその支給された内容によっては、単純に右最終の支給日から四〇日後とすることができない場合も考えられるが、これらの事情については特段の主張も立証もないから、納期については、右最終の材料支給日から四〇日後である八月一九日というほかない。

三  以上のとおり、右請負契約の納期については、昭和四五年八月二九日と認められるところ、原告京王はこれと異り同年七月三一日を納期であるとし、これを前提として本訴請求をなすものであるから、その余の点について判断するまでもなく原告京王の本訴請求は理由がない。

四  そこで、被告の原告京王に対する反訴請求について検討する。

被告が右請負契約に基いて、別紙一覧表(一)中番号1ないし9記載のとおりの部品を製作して原告京王に引渡したことおよび右部品の加工代金額および材料費が被告主張のとおり五四万七七六〇円であることは当事者間に争いがない。

よって、次に原告京王の抗弁について判断する。

《証拠省略》によると、被告が製作して原告京王に納入した部品のうち、二〇一アイピース八個すべてにつき、テンションロードの結合に不良個所があり手直しを必要としたこと、右八個のうち一個についてのみ不良の程度が著しく、削り直しと熔接のし直しをし、他の七個はやすり或はサンドペーパーで削る程度で補修し得たこと、右一個の補修費は三万二〇〇〇円を要したこと、また、二一二ロックピンは穴あけ作業が悪かったため内径を削り直す作業を要しそのため三万五〇〇〇円を要したことが認められる。

原告京王は二〇一アイピース八個のすべてについて全面的な補修を要し、そのため二五万六〇〇〇円を要した旨主張するが、これを証するための資料として提出された《証拠省略》は、その記載内容のみからすると、主張の事実を内容とするものであるか否か必ずしも明らかでないばかりでなく、《証拠省略》によると、右書面は原告京王から求められて押印したが全く事実と相異するものと認められるのであり、《証拠省略》に照らしても措信することができず、他に原告京王の右主張を証するに足りる証拠は見当らない。

してみると、原告の相殺の抗弁は、右認定された補修費の合計六万七〇〇〇円の限度で理由があり、その余は理由がないものというのほかない。

以上のとおりであるから、被告の原告京王に対する反訴請求は、その請求金額五四万七七六〇円から、右相殺を認めることのできる六万七〇〇〇円を差引いた四八万七六〇円の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却する。

第二原告東港の本訴請求並びに被告の同原告に対する反訴請求について

一  原告東港の本訴請求の請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二  納期につき、被告は合意により昭和四五年八月一〇日に変更された旨主張し、原告東港は、履行の催告期限として同日を指定して催告した旨主張しているところ、《証拠省略》によると、右は被告の主張するとおり、被告の申入れにより、合意により納期が昭和四五年八月一〇日に変更されたものと認められる。

三  そこで、以下において右納期を前提として、原告東港の主張する、履行不能を理由とする解除の効力について検討する。

《証拠省略》を総合すると次のとおりの事実を認めることができる。

(一)  被告では、原告東港から請負った右フェアリーダーの製造を、訴外渡辺剛通が工場長をしていた第五工場にその製造を担当させていたが、同じく第五工場で担当していた原告京王の注文にかかる前記排土機の作業が予定より遅れていたため、原告東港の注文にかかる右フェアリーダーについては、昭和四五年七月末日ころには、未だ殆んどその製造に着手していない状態にあった。

(二)  そこで、被告では同月末日ころ、製造担当者、資材、営業、総務の各担当者に経理部長木俣一雄を交えて協議し、右フェアリーダーを約定の納期である同年八月一〇日までに完成させることを確認し、そのために必要な部品の発注等の手配をした。

(三)  右フェアリーダーは、原告東港から、原告京王を経て訴外ニッサクに、訴外ニッサクは更にこれを訴外波止浜に納入すべきもので、訴外ニッサクは右訴外波止浜に対する関係で納期に制約を受けていたため、被告をして作業を急がせるよう原告京王および原告東港を督励していた。

(四)  昭和四五年七月三一日ころ、訴外ニッサクの代表者加藤正治、原告京王の事業課長細賢一、原告東港の営業部長田島らが被告の工場を訪れた際、被告の作業が捗っておらず、特に原告東港の注文にかかるフェアリーダーについては殆んど手がつけられていない状態であったため、右加藤がこのままでは被告のもとでは納期までに完成の見込みがないとして支給した材料を引揚げるよう強く原告東港に要求したが、これに対し被告の職員西内禄郎は約定の納期まではまだ日があり、被告としては期限内に完成し得るとして反対した。

(五)  しかし更に右加藤から原告東港に同様の要求があったため右高井は被告の工場長であった前記渡辺を呼んで今後の工程について問いただした結果右渡辺には期限内に完成させる見込みも意思もなく到底約定の納期までに完成される見込みがないものと判断し、被告東港に支給してあった材料を引き揚げることとした。

(六)  そこで、同年八月二日に被告の工場に赴いて、右渡辺工場長に対して、支給済の材料の返還を求め、その交付を受けてこれを持ち帰った。

以上のとおり認めることができる。

右認定し得た事実に基いて判断するに、原告東港および同原告が原告京王を経て製品を納入すべき訴外ニッサクが、昭和四五年七月末日現在において、被告が未だその作業に殆んど手をつけていない事情を知り、約定の期限までに完成されることに不安を抱き、被告の作業現場の責任者である訴外渡辺にこれを問いただした結果履行が不可能であると判断したことは一応もっともなことと考えられる。

しかし、被告が原告東港から請負ったフェアリーダーの製作は、その納期を当初昭和四五年七月末日と定めた点からすると、通常の作業工程において二三日間程度でこれを完成させ得るものであり、原告が履行不能と判断して支給品を引きあげた同年八月二日から履行期である同月一〇日までなお八日間を残していたことからすると、被告の履行の意思と工夫によっては、その完成が全く不可能であったと断ずることはできないものと考えられる。

そしてこの点に関する被告の意思についてみるに、被告においては、工程会議を開くなどして、受注にかかるフェアリーダーの完成をすすめており、これを完成させる意思を放棄していたものとは認められない。もっとも、当時原告東港の代表者であった訴外高井清和は、右渡辺工場長から、右フェアリーダーの契約期限内における完成の見込みと完成させる意思の有無を聞いて支給品の引揚げを決定しているが、《証拠省略》によると、訴外渡辺は被告の第五工場長として右フェアリーダー製作の現場の責任者であるが、被告の社内において、受注にかかる製品の製造を中止することを決定する権限も、また被告を代表ないし代理して契約関係について対外的に法律行為をする権限もなかったものと認められるのであって、右渡辺の意思をもって被告に完成の意思がなかったとすることはできない。

請負契約において、その完成に相当の日数を要する場合、その約定の履行期前においても、受注者において履行期までに仕事を完成させることができないと認められる場合には、注文者は履行期の到来を待つことなく、履行不能を理由としてその契約を解除し得るものと解すべきであるが、右解除は一旦契約により受注者に与えられた期限の利益を奪うものであり、かつそれによって、債務不履行の責任をも負わせるものであることを考えるならば、右履行期前における契約の解除は、慎重にこれを判断してなすべきものと考えられるところ、前記認定のとおり、履行の能否が履行期までの残存期間に照らし、受注者である被告の意思にかかっており、しかも原告東港の主張するとおり、解除により被告の負担すべき損害賠償の責任が極めて重い結果となる本件においては、これを解除しようとする原告東港としては、被告に対し、解除された場合被告において負担すべき損害賠償責任の内容を諒知させたうえ、被告の態度によってはその考慮に要する相当期間を置いたうえで、被告に履行期までに完成させる意思がないと認められたときこれを解除することができるものと解するのが相当(履行遅滞後における解除に関する民法五四一条が考慮されるべきである)である。

《証拠省略》によると、原告東港の当時の代表者であった訴外高井清和は、専ら被告の第五工場長に過ぎない訴外渡辺剛通(同訴外人に被告を代表ないし代理する権限のなかったことは既に認定したとおりであり、しかも《証拠省略》によると、同訴外人は被告の第五工場長に就任する前は原告東港の職員であったと認められる)とのみ交渉してその完成を促し、或は履行期までの完成の能否について確認しているのみで、被告を代表し、或は右フェアリーダーの請負契約に関し被告を代理して決定し得るべき何者ともその履行の能否或はその意思を確認していないものと認められ、また、支給してあった材料の引揚げについても右訴外渡辺と交渉して引渡しを受けたに過ぎず、被告に対し履行不能を理由とする契約解除をなす旨の明確な意思表示をなしたものと認め得べき何らの証拠も見当らない。

四  以上のとおりであるから、原告東港において、履行不能を理由とする有効な意思表示があったものとは認めることができない。

従って、その余の点について判断するまでもなく、右解除を原因とする原告東港の請求は理由がない。

五  最後に、被告の原告東港に対する反訴請求についてみるに、右反訴請求の請求原因事実については全て当事者間に争いがなく、原告東港に対し反訴状が送達された日の翌日は本件記録上昭和四六年八月二四日であると認められるところ、右請求原因事実によると被告の右反訴請求は理由がある。

第三結論

以上のとおりであるから、原告京王、同東港の請求はすべて理由がないものとして棄却し、被告の原告京王に対する反訴請求は四八万七六〇円とこれに対するその約定の履行期の翌日である昭和四六年二月二一日以降その支払いがすむまで年六分の限度で理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告の原告東港に対する請求は全部理由があるからこれを認容する。

訴訟費用については、民事訴訟法八九条、九三条を適用し、被告に生じた全費用はこれを三分してその二を原告京王のその余を原告東港の負担とし、その余は各自の負担とする。

仮執行宣言の申立については相当でないと認めてこれを付さないこととする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊)

〈以下省略〉

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